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小説

日の光がジンジンと小春の額を襲い、とてつもない程の喉の渇きとともに

小春は自転車のペダルをこいだ。

今日は今季最も暑い猛暑日だ。

自宅につき、玄関を開けると

「おかえり。」優しく静かな聞きなれた母の声が聞こえた。

「ただいまー」小春はいかにも疲れているような声で返事をした。

小春の父親は、小春が幼いころ離婚してしまい

母がずっと世話をしてきた。

 

テレビから小春の住む地域で通り魔が出たとのニュース番組を流しながら

母は「今日は早いわね。体調でも崩したの?」と心配そうな眼付きで小春を見る。

小春は社会人二年目の会社員だ。

「あー今日は早上がりさせてもらえることになったから」小春はだるそうに答えた。

 

数十分後、母から再び

「今日は早いわね、何かあったの?」と小春は問われた。

母は現在認知症を患っている。そのため、こんなことは日常茶飯事だ。

そして母が不自由しないよう毎月、治療費も含めて5万円を封筒に入れて渡している。

小春が自由に使えるお金なんてほとんどない。

小春はそんな母に嫌気がさしていた。

「うっさいな!さっき言ったじゃん!」大きな声で小春は怒鳴った。

母は悲しい目で申し訳なさそうに黙ってしまった。

ここ最近はこれの繰り返しだ。

 

小春も、母は悪気がないし、しょうがないということは

わかっていた。

だが、いつも感情的になってしまう。

毎回そんな後悔の繰り返しだ。

 

そして8月5日。小春の誕生日だ。小春はいつも通り会社へ出勤した。

母親は認知症を患っているため、きっと忘れてるだろうと思い

祝われることはないだろうと

母とは言葉を交わさず家を出た

 

家を出ると、近所のマダムたちが群れを成して昨日の通り魔の話をしていた。

そんなマダムたちを横目に小春は自転車でこぎ去っていった。

 

お昼休み、小春は同僚や上司に誕生日を祝ってもらっていた。

その頃、家では母が買い物袋を持ち家を出た。

 

母の持つメモ帳のカレンダーの8月5日の欄には

「小春の誕生日」と書かれていた。

母は小春の誕生日が今日だと知っていたのだ。

小春の好きなご飯も全部そのメモ帳に書かれてあった。

 

母は買い物を終えて家に着くとすぐに

祝いの準備を始めた。

午後6時ごろ祝いの準備が整った。

 

その頃小春は友人たちと祝いもかねてイタリアンレストランに行っていた。

母のことなど全く頭になかった。

 

午後8時を迎え

母はもう一品小春の好きなものを作って喜ばせようと

食材を買いに

再び買い物袋を持ち、家を出た。

 

 

午後九時。小春の携帯が不吉な音を鳴らす。

小春は電話に出ると、顔を青くして走り始めた。

 

 

目の前には集中治療室の中にいる母。

何が何だか全くわからなかった。

ただひたすら母の右手を握り

「お母さん!お母さん!いやだ!おいてかないでよ、、!」

そう何度も叫んだ。

その後まもなく、かすかに凹凸のあった心拍機の線が

直線となった。

何も言葉が出えなかった。ただただ泣いた。

 

 

その数日後。

小春は、母の部屋を掃除していた。

そして母の机の棚を開けたとき

小春は固まってしまった。

そこには母に二年間毎月渡していたはずの五万円を入れた封筒が

全く使われずに残っていたのだ。

そしてそこには一つのメモ帳もおいてあった。

 

そしてメモ帳の中を見ると

メモの内容は小春のことばかりなのだ。

8月5日の欄には

「今日は小春の誕生日。絶対に忘れちゃダメ。」

細々と簡素な文字で書かれていた。

 

「ごめんねお母さん。ごめんね、、」

小春の視界が涙でぼやけてきた。

零れ落ちる涙で母の字はどんどん見えなくなっていき

小春のうめき声が部屋中を覆った。

 

お葬式には親戚だけを呼び

母を弔った。母の死因は通り魔だった。

 

 

そして小春は今も

力強く生きている。